費用負担で入居者トラブルのリスク?改正民法・原状回復ガイドライン・東京ルールを学ぼう

(写真=Rawpixel.com/Shutterstock.com)
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マンション経営をするうえで注意したいのは「入居者トラブル」です。なかでも、退室時の原状回復費用負担や敷金の返還に関して入居者との間でトラブルが発生すると、オーナー自らリフォーム費用を捻出しなければならないという「お金の側面でのリスク」があり、マンション経営の収支に影響が出ます。

また、仮に入居者とのトラブルで収拾がつかない場合に、弁護士を交えて交渉したり、訴訟に発展したりするリスクも考えられます。そうなると、時間的な手間や費用の負担も大きくなってしまいます。

入居者とのトラブルを未然に防止するために、2020年4月の改正民法、国土交通省の原状回復ガイドライン、東京ルール(賃貸住宅紛争防止条例)の内容とポイントを確認しておきましょう。

(本記事は2018/11/16配信のものを2023/02/14に更新しております)

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▼目次

  1. 入居者との原状回復・敷金トラブル件数
  2. 2020年4月改正民法における原状回復・敷金
  3. 国土交通省のガイドラインの基本的な考え方
  4. 東京ルール「賃貸住宅紛争防止条例」とは?
  5. 具体例に、どんな原状回復費用が貸主負担?借主負担?
  6. 賃借人(借主・入居者)とのトラブルを避ける方法

入居者との敷金・原状回復トラブル件数

では実際に、オーナーと入居者との間でどのくらい原状回復や敷金に関するトラブルが発生しているのでしょうか。

国民生活センター(PIO-NET)に寄せられた「賃貸住宅の敷金・原状回復トラブル」は、年々減少傾向にあるものの毎年1万件を超える規模で推移しており(下の図表を参照)、マンションオーナーにとって無視できない数字となっています。

【図表】国民生活センター「PIO-NET」に登録された、賃貸住宅の敷金・原状回復トラブル相談件数の推移(2015年~2020年)
※国民生活センター「賃貸住宅の敷金・原状回復トラブル」より作成
※ここでは「借家」「賃貸アパート」「賃貸マンション」「間借り」などを「賃貸住宅」としています。

2020年4月改正民法における原状回復・敷金

2020年4月1日から改正民法が施行され、賃貸借契約に関するルールが変わりました。改正後の民法では、賃貸借契約のなかでも「入居中の修繕」「退室時の借主の原状回復義務」「敷金の精算・返還」「賃借物の一部使用不能による賃料の減額等」など、リフォーム・原状回復に関するルールの見直しが多く行われています。ポイントを押さえておきましょう。

【賃貸物件の入居中修繕に関して】

オーナーに修繕の必要性を通知したのに直してくれない場合、緊急性がある場合に、借主が自ら修繕できると定められました。なお、その際の費用に関しては貸主に請求できると定められています。

一方で、借主の責任により修繕が必要となった場合には、貸主は修繕義務を負わないことが明文化されました。

【借主の原状回復義務・収去義務】

原状回復義務とは、入居者が退室する際には「原状」つまり契約開始当初の状態に戻して貸主に返還しなければならないという「借主の義務」のことです。民法改正前は「借主の権利」として規定がある一方、賃貸借契約の性質上「借主が当然に負う義務」として解釈されていました。改正後の民法においては、原状回復が「借主の義務」として明文化されています。

【敷金の定義・ルールの明確化】

賃貸借契約では、賃料の不払いがあった場合の担保、および退室時の原状回復費用として、借主から貸主に「敷金」を差し入れているケースが多くあります。ですが、改正前の民法には条文の定めがなく、賃貸借契約に関連するものの契約としては別個のものと解釈されていました。

改正後の民法では、敷金の定義として「賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で賃借人から賃貸人に交付される金員」と明文化されました。また、敷金の余った部分に関しては借主への返還義務があること、名目が「保証金」などであっても敷金として返還義務があることも明文化されています。

【賃貸物件の一部が使えないときの賃料減額】

賃貸物件の一部(部屋の一角、設備など)が、借主の責任なく使用収益できない状態となったとき、使用収益できない割合に応じて賃料が減額されることが規定されました。

この規定については、改正前の民法では「請求することが可能」というものでしたが、改正後の民法では「当然に減額される」というものにルールが変わっていますので、オーナーとしては注意が必要です。もっとも現状では、減額の割合や期間・方法について明確な基準が定められているわけではなく、貸主と借主の協議の上、減額対応が行われることとなります。

【連帯保証人の極度額に関するルール】

賃貸借契約では、貸主が借主に対して「連帯保証人」の設定を要求するケースが多くありますが、その場合に保証人としての責任の限度が規定されました。

具体的には「個人根保証契約(一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約であって保証人が法人でないもの)」に関しては「極度額(保証人が責任を負う金額の上限)」を設けるべきことを定め、極度額の定めがない場合は個人根保証契約が無効となることが規定されました。

【賃貸物件が譲渡された場合のルール】

「賃貸人たる地位」つまり家賃を受け取る権利の移転について、民法改正前は裁判による解釈を行っていました。改正後の民法では従来の判例をふまえ、賃貸借の対抗要件(賃貸借契約の登記賃貸物の引き渡し、貸地上に借主名義の登記がなされた建物が存在すること等)が備わっていれば、賃貸不動産の譲渡により賃貸人たる地位が移転する旨が明文化されました。

賃貸借契約に関する民法のルールが変わります(法務省)

改正民法施行に伴う民間賃貸住宅における対応事例集(令和3年3月 国土交通省 住宅局 住宅総合整備課 賃貸住宅対策室)

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国土交通省のガイドラインの基本的な考え方

2011年8月に作成された国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」には、原状回復の負担について原則・基本的な考え方が記載されています。

国土交通省のガイドラインによると、賃貸人(貸主)が負担すべき項目としては「経年変化(自然的な劣化・損耗等)」「通常損耗(賃借人の通常の使用により生ずる損耗等)」「グレードアップ(建物の価値を増大させるような修繕等)」などが挙げられています。

一方で、賃借人(借主)が負担すべき項目としては「賃借人の故意・過失」「善管注意義務違反」「通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損」などが挙げられています。

さらには原状回復に関する基本的な考え方として、次に挙げる内容なども記載されています。

・入居時及び退去時おいて、損耗等の有無など物件の確認を徹底すること
・賃借人に特別の負担を課す特約の要件
・物件・設備の使用上の注意点を賃借人に周知すること
・原状回復は可能な限り毀損部分に限定し、毀損部分の補修工事が可能な最低限度を施工単位とすること

※国土交通省-「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について-

東京ルール「賃貸住宅紛争防止条例」とは?

東京都は国土交通省のガイドラインを受けて、東京ルールと呼ばれる「賃貸住宅紛争防止条例(東京における住宅の賃貸借に係る紛争の防止に関する条例)」を作成しています。この条例は、宅地建物取引業者が賃借人に対して行うべき説明義務を定めたものです。

条例の適用対象は、東京都内の賃貸住宅(店舗・事務所等は対象外)において新規賃貸借契約(更新契約は対象外)が行われる場合です。賃貸借契約において媒介(仲介)または代理となる宅地建物取引業者は、書面を交付して賃借人に説明する必要があります。説明する内容としては次の項目があります。

・退去時における住宅の損耗等の復旧について(原状回復の基本的な考え方)
・住宅の使用及び収益に必要な修繕について(入居中の修繕の基本的な考え方)
・実際の契約における賃借人の負担内容について(特約の有無や内容など)
・入居中の設備等の修繕及び維持管理等に関する連絡先

なお、東京都は条例とあわせて「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」を作成しています。東京都のガイドラインでは国土交通省のガイドラインを参考に、賃貸住宅紛争防止条例や国土交通省のガイドラインの理解がより深まるよう、わかりやすく説明する内容となっています。

※「賃貸住宅紛争防止条例」東京都

ちなみに、東京都は賃貸住宅紛争防止条例や条例施行規則、モデル説明書に関して、外国語版(英語版、中国語版、韓国語版)を作成しています。これは近年の東京都内における外国人の増加を受けたものと見られます。法務省の報道発表資料(2018年3月)によると、2017年末の在留外国人数は約256万人、前年末に比べて約18万人(7.5%)増加し過去最高となりました。在留外国人数を都道府県別でみると、東京都は約53.7万人で全体の21.0%を占めています。

今後も外国人の増加傾向は続き、東京都内の賃貸需要を支える要因の一つになると予想されています。そのため、外国人との間においても原状回復に関するトラブルが生じないよう配慮しておく必要があると言えます。

※「平成29年末現在における在留外国人数について(確定値)」法務省

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具体例に、どんな原状回復費用が貸主負担?借主負担?

次に、原状回復費用の負担に関して、貸主負担となるもの・借主負担となるものの具体例について確認していきましょう。次の通りです。

◎賃貸人(貸主・オーナー)負担となる具体例

・家具の設置による床・カーペットのへこみ、設置跡
・テレビ・冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(電気ヤケ)
・壁に貼ったポスター等によるクロスの変色、日照など自然現象によるクロス・畳の変色、フローリングの色落ち
・賃借人所有のエアコン設置による壁のビス穴・跡
・下地ボードの張替えが不要である程度の画鋲・ピンの穴
・設備・機器の故障・使用不能(機器の寿命によるもの)
・構造的な欠陥により発生した畳の変色、フローリングの色落ち、網入りガラスの亀裂
・特に破損等していないものの、次の入居者を確保するために行う畳の裏返し・表替え、網戸の交換、浴槽・風呂釜等の取替え、破損・紛失していない場合の鍵の取替え
・フローリングのワックスがけ、台所・トイレの消毒、賃借人が通常の清掃を行っている場合の専門業者による全体のハウスクリーニング、エアコン内部の洗浄

◎賃借人(借主・入居者)負担となる具体例

・飲みこぼし等の手入れ不足によるカーペットのシミ、冷蔵庫下のサビを放置した床の汚損、引越作業等で生じた引っかきキズ、賃借人の不注意によるフローリングの色落ち
・日常の清掃を怠ったため付着した台所のスス・油、結露を放置して拡大したカビ・シミ、クーラーからの水漏れを賃借人が放置して発生した壁等の腐食、喫煙によるヤニ等でクロスが変色したり臭いが付着している場合、重量物をかけるためにあけた壁等の釘穴・ビスで下地ボードの張替えが必要なもの、天井に直接付けた照明器具の跡、落書き等故意による毀損
・ペットにより柱等にキズが生じ、または臭いが付着している場合
・風呂・トイレ等の水垢、カビ等、日常の不適切な手入れもしくは用法違反による設備の毀損、鍵の紛失または破損による取替え、戸建て住宅の庭に生い茂った雑草の除去

※「原状回復基礎知識」全国賃貸不動産管理業協会

賃借人(借主・入居者)とのトラブルを避ける方法

原状回復費用の基本を踏まえたうえで、借主とのトラブルを避けるためにはどうすれば良いでしょうか。ポイントとして、契約時に法令・ガイドライン・条例に基づいた説明を徹底すること、入居前の状態を写真等で記録することなどが挙げられます。

また、入居者の退室時にはリフォーム工事を実際に行う内装業者に立ち会ってもらい、実際にかかる費用を説明したうえで入居者から承諾を得れば、後々の齟齬(そご)が発生しにくくなります。

ちなみに、最近では360度の写真撮影が可能なVR(Virtual Reality:仮想現実)の技術も普及してきています。自分がその空間にいるような感覚で画像を確認できる画期的な技術で、傷ついたり汚れたりしている箇所がわかりやすいことに加え、撮影したい箇所をもれなく記録するのに向いています。うまく利用してトラブル防止に役立てるのも良いでしょう。

副業オーナーとして退室時のトラブルを未然に防ぐためには、入居者との賃貸借契約、退室時立会い、敷金精算などの業務に精通している賃貸管理会社を選ぶことが何よりも大切です。入居だけでなく退去についてもきちんと考えて、適切な投資を行うようにしましょう。

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