資産形成・運用
2018/11/21

民泊新法がついに施行!これまでの「民泊」はどう変わったのか?

(写真=PIXTA)
(写真=PIXTA)
近年の日本では、インバウンド(訪日外国人観光客)の著しい増加が見られます。日本政府観光局(JNTO)の報道発表資料によると、2017年の訪日外客数は前年比19.3%増の2,869万1,000人で、日本政府観光局が統計調査を始めた1964年以降、過去最多となりました。

※「訪日外客数(2017 年12 月および年間推計値)」日本政府観光局

インバウンドの増加を証明するかのように、都心や人気の観光地において宿泊需要が高まり、宿泊施設が不足する地域も出てきています。この状況を解消する方法として「民泊」に注目が集まっています。

民泊とは、個人の住宅に旅行者などを有料で宿泊させるサービスのことです。民泊は、遊休資産を他人に貸し出すことで有効活用する「シェアリング・エコノミー(共有経済)」の概念を浸透させた先駆けとも言われており、新しい経済のあり方を象徴するサービス形態の一つとして社会的に広く認知されつつあります。一方で、民泊では特有のトラブルが生じる可能性もあるため、トラブルを未然に防ぐ対策も考えておく必要があります。

【参考記事】未然に防ぐ!「民泊新法」の施行と急増する民泊トラブルへの対策とは

期待が高まる民泊に対して法整備が進められた

民泊に対する社会的な要請を受け、2013年に制定された「特区民泊(国家戦略特別区域法に基づく旅館業法の特例)」に続き、2016年4月には旅館業法施行令の一部改正により「簡易宿所営業施設における客室の延床面積の基準」が緩和されました。さらに2017年には「民泊新法(住宅宿泊事業法)」が成立し、2018年6月15日から施行されています。こうした状況を背景に、法整備という観点からも、日本国内で民泊を行ったり、利用したりする環境が整ってきたように思われるかもしれません。

しかし、実際に民泊を運営している方の実感としては、民泊新法の施行により規制が強化されたと見る向きが強いようです。

「民泊新法」制定の目的と背景

民泊新法は、急速に増加するなかトラブルも多い民泊に対して一定のルールを設けることで、民泊に関わる各事業者の適正な運営を維持し、国内外からの宿泊需要に対応できるよう健全なサービスを普及させることを目的としています。とくに"観光立国"を掲げている日本の場合、民泊という新しいムーブメントを法のもとできちんと管理し、経済発展につなげたいという狙いもあると考えられます。

もともと日本では、宿泊料を受けて人を宿泊させる場合には旅館業法の適用対象とされ、民泊についても旅館業法上の「簡易宿所営業」として許可を受ける必要がありました。しかし、旅館業法では民泊という新しい宿泊形態が想定されていなかったため、許可を受けるうえで必要な基準を満たすことはほぼ不可能でした。

その実情をふまえたうえで、民泊新法が成立・施行されたと考えて間違いないでしょう。もちろん、2020年の東京五輪を見据えていることは言うまでもありません。

民泊新法によって既存の民泊はどうなったのか?

民泊新法が施行されたことにより、現場はどうなっているのでしょうか。施行後の動向としては、民泊新法が十分に機能しているとは言えない状況が見られます。また、民泊新法が目指すところの「民泊の普及拡大」にはつながっておらず、むしろ縮小傾向にあると言えます。

・民泊の届出件数

民泊新法の施行に伴い、民泊の運営者は物件が所在する都道府県に「住宅宿泊事業」の届出を行うことで、旅館業法上の営業許可を得ていなくても民泊の運営を行うことが可能となりました。しかし実際には、届出が進んでいる状況とは言えません。

2018年6月26日に開かれた規制改革推進会議において提出された観光庁の資料によると、住宅宿泊事業の届出の提出は3,728件、うち受理済み2,210件(2018年6月15日時点)となっています。

※観光庁「住宅宿泊事業法について」(内閣府ホームページより)

・民泊仲介サイトによる対応が原因で利用者が混乱

観光庁は、民泊新法施行直前の2018年6月1日に「違法物件に係る予約の取り扱いについて」という通達を出しました。これを受け、民泊仲介サイト大手のAirbnb(エアービーアンドビー)では、民泊新法における届出番号の登録がない掲載物件の削除対応を行いました。その結果、2018年春の段階で6万2,000円以上あった掲載物件は、一時1万3,800件まで減少したと言われています。

さらには届出番号の登録がない物件について、Airbnbが強制的に宿泊予約のキャンセルを進めたことも混乱の引き金となりました。キャンセル対応においては全額返金とともに代替宿泊施設の案内も行いましたが、利用者の混乱は避けられず、突然予約キャンセルとなった外国人旅行者が宿泊できないという事態が生じました。

その後もAirbnbのサイトでは架空の届出番号を登録した掲載物件が複数見つかるなど、大手の民泊仲介サイトであっても民泊新法の施行に対応しきれていない現状が浮き彫りとなっています。

・民泊の届出が進まない要因は?

住宅宿泊事業の届出が進まない要因として、届出には約20種類の書類が必要となるなど手続きの煩雑さが指摘されています。そのため、民泊新法施行前より問題となっていた「ヤミ民泊」を続けている運営者もまだまだ多いと考えられます。

また、各自治体では近隣住民への配慮から、条例で独自の規制を設けているケースが多くなっています。民泊新法より厳しい条例が足かせとなり、民泊で収益を上げることが難しくなっているのです。

国土交通省が運営する「民泊制度ポータルサイト」によると、都道府県及び保健所設置市(政令市、中核市等、特別区)全150自治体のうち、区域・期間制限を含む条例を制定している自治体は50自治体となっています(2018年8月1日時点)このなかには東京23区のうち、都心3区(千代田区、中央区、港区)をはじめ18区が含まれます。

※「各自治体の窓口案内(条例等の状況等)」民泊制度ポータルサイト

このような状況を受け、民泊から撤退する運営者も相次いでいます。民泊で使用していた家具の処分、会議室への転用などを引き受ける「民泊撤退ビジネス」も登場しています。

東京オリンピック・パラリンピックに向けて民泊は普及する?

では、果たしてこれから民泊は普及していくのでしょうか。民泊に対する法整備が進んだ一方、現状の規制は厳しすぎるとの指摘が多く挙がっています。また、住宅宿泊事業の届出が煩雑で届出件数も伸び悩んでいる状況では、適正に運営された民泊を増やすことは難しいでしょう。

また、ヤミ民泊に対する取り締まりの面でも課題が残ります。ヤミ民泊が引き起こすトラブルへの懸念が払拭できなければ、日本には民泊という宿泊形態が根付かない可能性もあります。

そもそも日本は他国と比べて、異文化圏の人々を受け入れる体制が整っていない面も見受けられます。たとえば、日本語と外国語の間にある言語の壁、飲食店をはじめとする店舗での訪日外国人向け対応など、国際都市にふさわしい環境を考えれば課題が多いように思われます。まずは日本社会として、世界に開かれた受け皿を整備することが大切でしょう。

なお、世界でトップクラスの都市力を誇る東京では、2020年に東京オリンピック・パラリンピックが控えています。これを契機として、日本国内での国際交流が活性化し、異なるルーツや生活スタイルをもった人々に対しての理解がより深まれば、日本社会で民泊が普及する可能性も決して低くないと考えられます。

民泊に関する今後の動向も注視しておこう

民泊運営を検討している方だけでなく、不動産を保有している方であれば、何らかの形で民泊に関わる可能性があります。また、不動産を保有していなくても、国際交流のツールの一つとして民泊に関わる機会があるかもしれません。法律や各自治体の条例、民泊を取り巻く状況について知っておくことは、トラブル回避や適切な対処につながります。民泊に関する今後の動向も注視しておくと良いでしょう。

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