2018年2月。兵庫県三田市の女性が、大阪・京都両府内の民泊や山林で遺体として見つかりました。容疑者として逮捕されたのは、民泊を利用していた米国籍の外国人です。容疑者が利用した民泊の部屋から切断された遺体を発見したという衝撃的な事件でした。
この事件が報道される以前から、近隣住民への迷惑行為など民泊の利用者に関する問題は指摘されていました。また、民泊を運営する側の問題としても、旅館業法上の許可を受けずに民泊を行う”ヤミ民泊”のケースや、オーナーが民泊利用を承諾していないのにもかからず借主が無断で民泊を行うケースなどが問題視されています。
近年高まりをみせる宿泊需要に応えるべく、民泊における今後の発展に社会的な期待が注がれ、法整備も進められています。2018年6月には、住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行され、個人でも民泊営業を行いやすくなると考えられます。一方で民泊にまつわるトラブルも増加することが予想され、運営側としても、近隣住民の方や物件オーナーとしても、今後はこれまで以上に民泊に対して注意しなければなりません。今回は民泊で起こり得るトラブルを未然に防ぐ方策とともに、今後の展望を探っていきましょう。
民泊とは?
民泊とは、個人の住宅に旅行者などを宿泊させるサービスのことを指します。近年、海外から日本への観光客が増加し宿泊需要が高まる中で、都心や観光地において宿泊施設の不足を解消する方法として注目されています。特に、ここ数年で「Airbnb」などの民泊仲介サイトが急速に普及したように、手軽に利用できることや、ホテルや旅館と比べて安価に宿泊できることなどを理由として、多くの人に利用されています。
”ヤミ民泊”の実態とは?
民泊は宿泊の対価を得て運営するビジネスであることから、原則として旅館業法に定める「旅館業」として許可を得なければなりません。しかし実態としては、無許可で民泊を行っている”ヤミ民泊”のケースが多いという問題があります。
2016年10月から12月にかけて厚生労働省が行った「全国民泊実態調査の結果」によると、民泊仲介サイトに登録があった全国の民泊物件15,127件のうち、許可を取得した物件は2,505件で全体の16.5%、無許可の物件は4,624件で全体の30.6%でした。また、大都市圏中心市(東京都特別区部及び政令指定市)でみると、民泊物件8,200件のうち許可物件が150件(大都市圏中心市合計の1.8%)、無許可物件が2,692件(同32.8%)と、都市部では許可物件が少ない傾向がみられます。
なお、この調査では「物件特定不可・調査中等」が全国で7,998件、大都市圏中心部で5,358件と半数以上を占めているため、実際には無許可の民泊物件はもっと多いと考えたほうが良いかもしれません。わかっている範囲でも「民泊仲介サイト掲載物件のうち、少なくとも3割が無許可の民泊」という実態は問題視すべきでしょう。
さらには、調査を行ったことで、”ヤミ民泊”の特定、ひいては民泊に関する取り締まりが難しいというシビアな現実も浮き彫りとなりました。このような状況下では、良質な民泊物件の増加を期待できないと言えます。
住宅宿泊事業法(民泊新法)がまもなく施行
このように日本において民泊への認知が広がるなか、無許可での民泊営業も多くなっています。その原因としては、民泊を運営する当事者の認識不足もあると思われますが、旅館業法上の許可を得る手続きが煩雑なこと、そもそも旅館業法が民泊という事業形態を想定していなかったために、民泊営業を行いたい物件が旅館業法の要件を満たせなかったことなどが指摘されています。
このような状況を受け、民泊に関する法整備が進められました。民泊運営について定めた「住宅宿泊事業法(民泊新法)」が2017年6月に成立し、2018年6月15日から施行、住宅宿泊事業法の施行に向け、2018年3月15日より住宅宿泊事業の届け出が開始されました。
政府が公式に運営する民泊制度ポータルサイト「minpaku」によると、住宅宿泊事業法の目的と概要は次の通りです。
【目的】
「急速に増加するいわゆる民泊について、安全面・衛生面の確保がなされていないこと、騒音やゴミ出しなどによる近隣トラブルが社会問題となっていること、観光旅客の宿泊ニーズが多様化していることなどに対応するため、一定のルールを定め、健全な民泊サービスの普及を図る」
【概要】
1.住宅宿泊事業者に係る制度の創設
・都道府県知事等への届け出が必要
・年間提供日数の上限は180日(泊)
・家主居住型:「住宅宿泊事業の適正な遂行のための措置」(衛生確保、宿泊者へ騒音防止のための説明、苦情対応、宿泊者名簿の作成等)を義務付け
・家主不在型:「住宅宿泊事業の適正な遂行のための措置」を住宅宿泊管理業者へ委託することを義務付け
2.住宅宿泊管理業者に係る制度の創設
・国土交通大臣の登録が必要
・「住宅宿泊事業の適正な遂行のための措置」の代行、管理受託契約の内容の説明、契約書面の交付等を義務付け
なお、住宅宿泊管理業者の登録を行わずに業務を行った場合には、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金(又はこれの併科)などの罰則が定められています。
3.住宅宿泊仲介業者に係る制度の創設
・観光庁長官の登録が必要
・宿泊者への契約内容の説明等を義務付け
(民泊制度ポータルサイト「
minpaku」参考)
住宅宿泊事業法の施行により、条件を満たして「届出」を行うことで、個人でも民泊営業を行いやすくなることが期待されています。
なお、住宅宿泊事業法では、騒音の発生や生活環境の悪化などを防止する必要がある場合、各地方自治体の条例において合理的な範囲でより厳しい制限をかけることを認めています。特に、住居専用地域や小学校の周辺地域での営業制限や、営業日を週末に制限するなどの対応を行うケースが多いようです。
国土交通省によると、都道府県及び保健所設置市(政令市、中核市等、特別区)全150自治体のうち、区域・期間制限を含む条例を制定している自治体は46自治体となっています(2018年5月7日時点)このなかには東京23区のうち、都心3区(千代田区、中央区、港区)をはじめ18区が含まれます。
このほかにも、観光地として有名な軽井沢町は民泊をめぐり、「善良なる風俗の維持と良好な自然環境の保全」を目的として民泊を全面禁止とする方針を打ち出しました。これを受け、条例案を作成する長野県との間で協議が行われています。
民泊によるトラブル
住宅宿泊事業法に関する条例制定が多くの自治体で検討されている背景として、民泊によるトラブルが後を絶たないことが挙げられます。民泊の利用者に関するトラブルには、次のようなものがあります。
・近隣住民や同じマンションの居住者へ迷惑をかける
部屋だけでなく共用スペースで大騒ぎするケースや、旅行者が間違えて宿泊する部屋の隣のドアを叩いたために住人が迷惑するケースなどがあります。このようなトラブルに対処するため、区分マンションの管理規約で民泊が禁止されることも多くなっています。
・室内を汚したり、設備を壊したりする
万が一汚損や破損があった場合でも、民泊の利用者が弁償してくれればよいのですが、日本語が通じない、帰国してしまい連絡がとれないなど、修理費用を請求できないケースも聞かれます。
・衛生面のトラブル
ホテル感覚で利用する旅行者も多いため、バスルームやトイレの利用の仕方、ゴミの処分などで衛生上の問題が生じることもあります。また、海外からの感染症が持ち込まれてしまった場合には、対策が不十分となりやすい面も心配です。
・犯罪に利用される
利用者に関する情報が少なく利用者の審査ができないため、冒頭に述べたような殺人事件や、薬物取引などの犯罪に利用される可能性も高くなります。
また、民泊の利用者に関するトラブル以外にも、注意したいトラブルがあります。例えば、賃貸物件の借主がオーナーの承認を得ないで民泊営業を行うケースが挙げられます。このケースでは、オーナーが知らない間に民泊のトラブルに巻き込まれ、予期せぬ対応を余儀なくされることがあります。
トラブルを未然に防ぐには
特に、冒頭で述べたような事件が発生してしまった後では、民泊に関する保安上の懸念がさらに広がることでしょう。これから先、外国人観光客が増えるにともないトラブルを未然に防ぐための対策を知っておかなければなりません。そこで、民泊を運営する人および不動産所有者、それぞれの対策について3つの側面から見ていきましょう。
・民泊の運営者の場合
民泊の運営者に求められるのは、まず旅館業法上の許可もしくは住宅宿泊事業法上の届出といった手続きを経るとともに、法律や条例における営業日数などの制限、加えてマンションの管理規約や町内会のゴミ出しルールなどを遵守することです。当然、法律に違反した場合には罰則がありますし、ルールを守らないと民泊営業ができなくなる可能性もあります。借りている部屋で民泊を行う場合には、オーナーの承諾を得ることも必要です。
また、たとえ法律や条例に抵触しなかったとしても、近隣住民への配慮も欠かせません。特に区分マンションでは、各部屋の所有者と居住者への配慮が大切になります。トラブルに発展しないよう、運営者としてあらかじめ対策を講じることができないのであれば、民泊を行うべきではないでしょう。
・近隣で民泊の利用者が迷惑行為をはたらいている場合
もし、近隣で民泊の利用者が迷惑行為をはたらいている場合には、警察に連絡するなどして対応すると良いでしょう。騒音などの迷惑行為が確認できる場合には、騒音元に注意を行ってくれます。また、物を壊したり近隣住民に危害を加えたりする場合には、刑事事件として対応してくれます。
アパートやマンションなどの賃貸物件に住んでいる場合には、オーナー(もしくは賃貸管理会社)に連絡する必要があります。また、区分マンションの場合には管理組合(もしくは建物管理会社)に報告しましょう。民泊が管理規約で禁止されているのであれば、建物管理会社から民泊と思われる部屋の区分所有者に連絡し、事実確認や注意などの対応をしてもらえます。
なお、所有しているマンションで民泊に関する規定がない場合には、必要に応じて管理組合の総会で議題として取り上げてもらうなど、他の区分所有者の意見も取り入れながら対応すると良いでしょう。
・所有している部屋を民泊運営者に貸し出したくない場合
不動産オーナーの方で、保有している物件を民泊運営者に貸し出したくない場合には、賃貸管理会社と協力して防止策を講じることが大切になってきます。
「Airbnb」などの民泊仲介サイトが気軽に利用できることもあり、法律や条例、管理規約や賃貸借契約を理解していない賃借人が、オーナーに無断で民泊を行ってしまうケースも見受けられます。そのほとんどは“ヤミ民泊”として運営されているためトラブルの火種となりやすく、オーナーは知らない間に民泊のトラブルに巻き込まれてしまうのです。
このような事態を避けるためには、賃貸借契約前にあらかじめ布石を打っておくことがカギとなります。具体的には、賃貸管理会社の役割として、入居審査時に賃借人予定者と直接話すこと、賃貸借契約時に管理規約などのルールを遵守するよう明確に説明しておくことなどが考えられます。あらかじめ入居者に対して民泊不可であることを説明しておけば、民泊によるトラブルを未然に防ぐことが可能です。「知らなかった」ということがないように、周知徹底しておくことが求められます。
民泊と不動産投資の収益性について
最後に、民泊の収益性についても簡単にふれておきましょう。
住宅宿泊事業法の施行には、民泊営業がしやすくなるというメリットがあります。しかし一方で、年間提供日数の上限が180日(泊)であることに加え、各自治体の条例で営業日が制限されるため、収益性を確保できないというデメリットもあります。民泊を営業できない期間に収益を確保する方法として、旅館業法の「簡易宿所」として許可を受ける、ウイークリー・マンスリーなどの賃貸借契約(定期借家契約)を併用した”二毛作”を検討する民泊物件のオーナーもいるようです。このような高度な事業戦略が必要となるため、個人の方が副業として合法的な民泊を運営するのは、現時点ではまだまだハードルが高いかもしれません。
また、収益への期待感がある一方、民泊特有のトラブルが大きなリスクとなります。民泊営業を検討する場合には未然の対策を徹底し、危機感をもってトラブルに備えておく必要があります。特に区分マンションの場合、管理規約で禁止されている物件も多く、禁止されていない場合でも各部屋の所有者や居住者へ迷惑をかけないよう配慮しなければなりません。この点を考えると、一般の区分マンションでの民泊営業ではなく、一棟物件など、民泊に特化した物件での営業を検討するのが望ましいと言えます。
なお、民泊営業を前提として不動産投資を検討する場合には、今後の法制度や条例の改正などで制限がより厳しくなったり、最悪のケースとして民泊を営業できなくなったりする可能性も想定しておくとよいでしょう。考え方としては、民泊で収益を確保しようとするのではなく、通常の賃貸経営で収益を確保することを主軸に置いて考えるべきです。言い換えれば、民泊をメイン事業ではなく、賃貸事業のオプションとして捉えれば良いのです。そうすれば、民泊をめぐる社会情勢に振り回される可能性は低くなり、安定した不動産投資を行うことが可能となるでしょう。
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