東京の未来を占ううえでまず思いつくのは、2020年に開催が予定されている東京オリンピック・パラリンピックでしょう。大会が成功し、より価値のある魅力的なレガシーを残すことができれば、東京はこれからもさらに発展していく可能性があります。ただし、東京の国際競争力強化にとって重要なのはオリンピック・パラリンピックだけではありません。
日本の国際競争力を高める施策として注目されているのが、カジノを中心とした「統合型リゾート施設(Integrated Resort:IR)」です。世界に目を向けると、シンガポールやマカオ、さらにはラスベガスなど、世界中の人々を魅了しているIRが存在しています。既存経済が成熟した日本において、IRを軸とした成長戦略を描くのは自然と言えるかもしれません。
東京都港湾局では、2014年以降、「海外における特定複合観光施設に関する調査分析報告書」を作成し公表しています。さらに2018年7月の「IR整備法」成立を受け、「平成30年度特定複合観光施設に関する影響調査」の実施を決定。有限責任監査法人トーマツが本業務を受託しています。
・「海外における特定複合観光施設に関する調査分析報告書」東京都港湾局
・「平成30年度特定複合観光施設に関する影響調査~
調査の目的としては、IRを都に立地した場合の経済的・社会的影響について調査・分析し、IRのメリット・デメリットを整理すること。調査の履行期間は2019年3月までとされています。このことは、東京都が特定複合型観光施設、ひいてはIRの誘致を模索している可能性を示唆しています。
建設地の候補としては、青海などの臨海副都心エリアが有力とされています。あるいは、約23ヘクタールの広大な空き地となった築地市場跡地にIRが建設されれば、より大きなインパクトをもたらすことが容易に想像できます。
法律の整備状況から、IRに関する今後の動向について見ていきましょう。
2016年12月、「IR推進法(特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律)」が成立しました。この法律は、カジノを中心とした宿泊施設、会議施設、テーマパーク、商業施設などを一体的に整備する統合型リゾート(IR)の設立を推進する内容となっています。
今後の流れとしては、申請のあった自治体を対象として、国が法律に基づき「IR区域」を認定することとなります。そのうえで、適切な国の監視と管理のもと、民間事業者がカジノを運営していくかたちです。
さらに、2018年7月には「IR整備法(特定複合観光施設区域整備法、IR実施法)」が成立。日本型のIR制度が具体化されました。IR推進法およびIR整備法により、カジノ誘致の動向にも拍車がかかっているのが実情です。
東京に限らず、カジノ誘致を推進・検討している自治体は複数存在します。2018年秋に政府が行った、「カジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致に関する意向調査」では、次の自治体が名乗りをあげています。
IRの誘致に積極的な大阪、和歌山、長崎県が申請を行う予定とされている一方、東京、横浜、川崎などは申請を検討中のようです。また、名古屋市は未定。注目されていた沖縄は、申請を行わない方針を明らかにしています。
経済効果という観点から考えると、IRには大きな利点があります。具体的には、IR関連施設の建設投資や資材の生産、雇用の創出などはもちろんのこと、IRの運営における街の活性化や観光消費、さらにはMICE(※)を利用した国際会議、ビジネス関連イベントの誘致も期待されているためです。
※MICE:Meeting(会議・研修)、Incentive tour/Incentive travel(招待旅行)、Conference/Conference(国際会議・学術会議)、Exhibition/Event(展示会)の4つの頭文字を合わせた言葉
【参考記事】都心の再開発で注目される「MICE」施設の役割とは
大和総研がシンガポールを参考にして試算したところによると、北海道、横浜、大阪の計3カ所にIRをつくると仮定した場合、全国への経済効果は建設に関わる費用として約5兆円。運営にともなう費用として2兆円の経済効果が生まれるとしています。
またみずほ総研の調査では、東京に1カ所のIRをつくった場合、建設で約0.8兆円、運営で約2.9兆円の経済効果が生まれると試算しています(ただし、経済効果がおよぶ範囲は関東に限定)。
このように、カジノを含む統合型リゾートの誘致は、日本経済全体はもちろんのこと、不動産市況にも大きな流れを生み出す可能性があります。東京にIRができれば、東京都の不動産需要も大きく変化するかもしれません。今後の動向を注視しておきましょう。
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