近年、土地所有者と連絡が取れないことが原因で、管理が行き届いていない土地や建物が放置される、まちづくりや道路建設における土地収用がスムーズに進まない、固定資産税の徴収などに支障が生じて地方自治体の財政に影響が出るなど「所有者不明地」に関する問題が深刻化しています。その主な原因は、不動産の所有者情報である「登記」が適切に行われていないことです。
国土交通省が平成28年度に行った地籍調査によると、調査を行った62万2,608筆のうち、土地所有者等が「登記簿のみでは所在不明」であった土地は12万5,059筆(20.1%)でした。推計値として、全国の土地に換算すると約410万ヘクタール、実に九州の総面積367.5万ヘクタールを上回る面積の土地が登記簿上で所有者不明とされています。また「登記簿のみでは所在不明」の土地のうち最も多いのが「所有権移転の未登記(相続)」で、8万3,371筆(66.7%)となっています。
この状況を受け、法務省は2019年2月に「登記制度・土地所有権の在り方等に関する研究報告書~所有者不明土地問題の解決に向けて~」を公表、相続登記義務化の方針を打ち出しています。
所有者不明の土地が問題視される現代社会においては、すでに不動産を所有している方はもちろん、現在は不動産を所有していない方も「不動産登記」について知っておく必要があるといえます。今回は不動産登記がどのようなものかを踏まえながら、土地建物の名義変更が必要となるケースについて見ていきましょう。
(本記事は2019/06/18配信のものを2020/05/04に更新しております)
不動産登記事項証明書(旧不動産登記簿)を見ることがあるのは、一生のうち数えるほどかもしれません。しかし、ご自身の財産目録の中で一番高価かもしれない土地や建物の所有権をきちんと第三者に示す必要がある場面に遭遇する可能性もあります。それを証明するのが、不動産登記事項証明書です。これには、該当する土地・建物が一体だれのものかが過去から現在に至るまで記載されています。
不動産取引を円滑にしたり、不動産所有者を明確にしたりするために不動産登記事項証明書が存在します。コンピュータ化が行われる前は、不動産登記簿謄本と呼ばれる台帳に記載されていましたので、今でも登記簿謄本と呼ばれることが多いのは、それが理由です。不動産登記事項証明書は、法務局で誰でも閲覧・取得ができ、全国どこの法務局でも証明書を入手することができます。
取得するために特に必要となる書類はありませんが、土地の場合は地番、建物の場合は家屋番号がわかっているとスムーズに取得できるでしょう。法務局に支払う手数料は、窓口で請求の場合1筆600円(オンライン請求の場合、郵送で受け取ると500円、窓口で受け取ると480円)です。
不動産登記事項証明書を取得する際に注意したいのは、日常生活で使用している「住所」と不動産登記における「地番」は異なる場合がある点です。住所だけわかっていて地番がわからない場合、主に下記の3つの方法で調べることが可能です。
専門家でも使うことが多い方法が電話です。法務局の担当窓口につないでもらい、「地番照会お願いします」と伝えれば、「はい、どうぞ」と担当者もすぐにアクションを取ってくれます。アナログですが、確実な方法です。
住宅地図専門会社のゼンリンが出しているブルーマップという地番が載っている地図があります。また、ネットでもそれと変わらない住宅地図を閲覧することが可能です。ただし、有料となります。
ネット上で路線価図を閲覧することができます。すべて記載されているわけではありませんが、都心に比べて地方のほうが記載されている確率が高いです。
確実に地番を調べたいのであれば、1.の法務局へ電話がおすすめです。
不動産登記事項証明書に記載されている項目は、不動産所有者の氏名や住所、土地の大きさ、建物の大きさ、構造体などです。不動産登記事項証明書は大きく「表題部」「権利部甲区」「権利部乙区」の3つに分かれています。記載されている事項は、下記のような内容です。
所有権に関する事項・所有者などの情報
所有権以外の権利に関する事項・抵当権などの担保の情報
不動産登記事項証明書サンプル(法務省ホームページより)
不動産の名義変更が必要になることが、人生のさまざまな場面で出てきます。その個々のケースは後ほど詳しく述べますが、不動産の名義変更時は法務局に登記申請書類を提出して不動産の名義変更をすることが必要です。名義変更をすることで、第三者(売り主と買い主以外)に所有権を主張することができるようになります。すなわち、登記することが第三者に対する対抗要件となるのです。
不動産の名義変更手続きは、司法書士などに依頼することが一般的ですが、自分で行うことも可能です。仮に自分で手続きを行う場合、次のようなメリット・デメリットがあります。
登録免許税や、必要な書類の入手のための実費費用はかかりますが、司法書士など専門家への報酬を支払う必要がないため、費用を安く抑えられます。
書類入手のための手間がかかります。もし、遠方の役所の書類が必要な場合には直接出向くか郵送で取り寄せることとなり、時間がかかりがちです。また、登記申請する法務局は平日しか窓口が開いていないため、サラリーマンであれば有給休暇を取得する必要も出てくるかもしれません。このように自分で行う場合には、時間と労力が必要とされます。
名義変更にはどれくらいの時間がかかるのでしょうか。不動産の名義変更では、必要な書類を事前にそろえておく必要があり、一般的に登記申請が法務局に受理されてから1~2週間程度かかります。また、相続での名義変更は、書類が多くなるため、約2~4週間かかるのが一般的です。これら集めた書類を元に、一部の書類を自分で作成する必要が出てきます。
その後、作成した書類を法務局に出向いて提出し、不動産登記の申請をします。そのとき、登記申請書と必要書類を添付し、登録免許税などの税金を納めます。その後、審査が行われて不備がなければ完了です。審査の期間は一般的に1~2週間程度ですが、不備があった場合などはそれ以上かかるので注意しましょう。そのため、事前準備から登記まで1ヵ月ほどかかります。
ここまでは、不動産登記事項証明書の基本的な部分についてまとめました。ここから、どのような場合に土地建物の名義変更が必要となるか、具体的に述べていきます。 一般的に不動産名義変更をするには、大きく分けると以下の4つのケースが挙げられます。
それぞれのケースについて、順に見ていきましょう。
不動産を購入後、第三者に所有権を主張するためには、名義変更を行うことが必要です。この名義変更が、登記簿の甲欄、乙欄に追記されます。
不動産売買での名義変更の流れは、以下のようになります。
この一連の手続きを滞りなく行うために、午前中から立ち会いを行うことが一般的です。
「財産分与」とは、離婚の際に夫と妻のどちらが、どの財産を承継するのかを決めることをいいます。そして、不動産をどちらかに財産分与として渡す場合には、不動産の名義変更が必要です。話し合いが不調に終わる場合は、弁護士が間に入り家庭裁判所の調停が行われ、最終的に分与の割合が決まります。
財産分与での名義変更の流れは、以下のようになります。
財産分与の名義変更手続きでは、協議離婚(話し合いで離婚)と裁判離婚(調停などの裁判所の関与がある場合)で用意する書類が変わりますので、注意が必要です。さらに、不動産を夫婦間で共有している場合、夫婦間売買を行い、いったんどちらかに所有権を移してから第三者に売却するといった手順となります。
「生前贈与」とは、財産の所有者が生きている間に自分の財産を相続人に譲ることです。この場合には、相続人が贈与で譲ってもらった不動産の名義変更を行います。
生前贈与での名義変更手続きの流れは、以下のようになります。
「生前贈与の登記をいつまでに完了しなければならない」という決まりはありません。しかし、不動産の登記は、もし何かあった場合、第三者に対する対抗要件となりますので早めに済ますことが重要です。もし贈与する人、受け取る人のどちらかが亡くなってしまった場合、今度は生前贈与ではなく相続となりますので、新たな手間が発生します。
そのため、遅くとも贈与契約が成立した1ヵ月以内には不動産の名義変更の手続きを終了させたいものです。
遺産相続で不動産を取得した場合、相続人の名義変更手続きを法務局へ申請し、相続登記を完了します。
以上、不動産登記の概要と、不動産名義を変更しなければならない4つのケースについて紹介しました。2020年5月現在の法律においては、相続登記の期限について決まりはありません。しかし冒頭で述べたように、相続時の不動産登記は義務化される流れとなっています。また、所有者不明の土地が引き起こす問題を考えると、相続以外の所有権移転時においても不動産登記を行っておくべきです。
万が一、相続で引き継いだ不動産などが未登記の場合には、司法書士や不動産会社といった専門家の知見を借りながら、あわてずに間違いのない手続きを行うことをおすすめします。
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