不動産投資を行ううえで非常に重要なポイントとして、物件を所有した後の「賃貸管理業務」があります。不動産投資を行う方のうち、この業務を不動産会社に任せている方が大半を占めていますが、任せるにあたり明確な基準を持って賃貸管理会社を選択できている方は、実はそれほど多くないでしょう。
不動産会社の免許としては、不動産の売買や賃貸の取引に関わる「宅地建物取引業(宅建業)免許」がありますが、宅地建物取引業と賃貸管理業は別物です。実際に、不動産売買には詳しいけれど賃貸管理には詳しくない不動産会社も多く存在しています。
賃貸管理業に関しては免許制度がない一方で、公的な登録制度として「賃貸住宅管理業者登録制度」があります。一時期報道を賑わせたシェアハウス投資のトラブルでも、不動産会社の問題が取り沙汰されるなか、この制度の果たす役割に期待が高まっています。
(本記事は2018/06/14配信のものを2020/09/06に更新しております)
2018年1月、女性向けシェアハウス「かぼちゃの馬車」を当時運営していた株式会社スマートデイズが、サブリース賃料の支払いを停止。スマートデイズによるずさんな事業運営や、物件オーナーへの融資実行段階で提携金融機関(S銀行)による不正が行われていたことなどから、約1,000名とも言われる物件オーナーを巻き込んだ大きなトラブルへと発展し、社会問題となっています。
この事件をきっかけとして、2018年2月、全国の弁護士で構成される日本弁護士連合会(日弁連)は、国土交通省に「サブリースを前提とするアパート等の建設勧誘の際の規制強化を求める意見書」を提出しました。その内容としては、主に次のような項目を含んでいます。
(参考:日本弁護士連合会HP)
意見書の内容から、「賃貸住宅管理業者登録制度」の法整備に対し、社会的な要請が高まっていることがわかります。
賃貸住宅管理業者登録制度は、2011年に創設されています。制度の目的として掲げられているのは、賃貸住宅における「管理業務の適正化」です。公表される登録事業者の情報をもとに、消費者の方が、適正な管理業務を行っている管理業者や賃貸住宅を選択することが可能になるとされています。
一般社団法人賃貸不動産経営管理士協議会が配布しているリーフレットによると、賃貸住宅管理業者登録制度への登録業者数は、2014年12月時点で3,397社、2015年12月時点で3,757社、2016年12月時点で3,982社と年々増加し、徐々に普及が進んでいる状況が見られます。ただし、国土交通省による賃貸住宅管理業者の推計が3.2万社(2015年時点)であることを考えれば、さらなる普及の促進も課題です。賃貸住宅の管理に関する共通のルールが普及すれば、賃貸住宅に関するトラブルも減少すると予想されています。
賃貸住宅管理業者登録制度は、2016年9月に大幅な改正が行われました。改正の主な内容としては、次のようなものがあります。
この改正により、登録事業者に対して賃貸不動産経営管理士等の設置が義務付けられるとともに、賃貸不動産経営管理士等に重要な役割が付与されました。具体的には、「賃貸住宅管理に関する重要事項説明および重要事項説明書の記名・押印」「賃貸住宅の管理受託契約書の記名・押印」などが挙げられます。
この改正が行われたことで、賃貸不動産経営管理士試験の受験者数も増加しています。改正決定前の2015年度では受験者数が4,908名であったのに対し、改正決定後の2016年度では13,149名と受験者数は急増し、2017年度は16,624名、前年と比べて26.4%の増加となっています。このことからも、賃貸住宅管理業者登録制度への注目がますます集まっていることがわかります。
ただし、賃貸住宅管理業者登録制度にはまだ問題があるとされています。たとえば、制度そのものが任意という点です。登録をしなくても賃貸管理業を行うこと自体は可能な点や、違反しても登録が取り消されるだけで営業は可能という点など、制度上の不備が指摘されています。登録が任意となっている理由としては、地場の不動産会社など小規模な事業者にとって登録手続きや業務状況報告などの負担が大きいという点に配慮したためと考えられます。
また、賃貸住宅の管理に関しては現在のところ特段の法規制等がないため、登録を受けていない不動産会社については適切に賃貸管理業務を行っているかどうか、判断できないという問題があります。もし仮に厳しい法規制があったならば、「かぼちゃの馬車」事件による被害はもっと少なかった可能性も考えられます。
賃貸管理業務に関して、重要な役割を担うであろう賃貸住宅管理業者登録制度のあり方が問われています。制度の実効性を高めるためには、任意の登録にとどまるのではなく、一定の戸数以上を管理していて「小規模」とは言えない業者について、制度への登録を義務付ける方法なども考えられます。賃貸管理会社の選択基準となり得る制度として、さらなる整備と普及が期待されます。
賃貸管理業務は、オーナーにとっては安定した家賃収入に大きく関わる業務です。また、賃貸住宅の入居者にとっては、生活の基盤を支える業務です。オーナーにも入居者にも必要不可欠なものとして、賃貸管理業務の適切な運営が望まれます。制度はもちろん、賃貸管理業の本質がより広く認知されていくことによって、賃貸管理の現場も変わっていくかもしれません。
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