保有している物件の修繕に関するキーワードに「リフォーム」「リノベーション」があります。いずれも、建物の価値を維持するため、もしくは高めるために効果的な方法です。近年では耳慣れた言葉ですが、明確にどのような違いがあるのか理解できていない方もいるかと思われます。
リフォームとリノベーションでは、実際の工事内容が異なることはもちろん「かかったお金の経費計上方法」にも違いがあり、不動産所得の確定申告において重要なポイントとなります。本記事では、あらためてリフォームとリノベーションの特徴や、それぞれの違いについて確認しておきましょう。
(本記事は2018/07/23配信のものを2023/02/02に更新しております)
「リフォーム」「リノベーション」という言葉に、法令による明確な定義はありません。そのため、まずここでは一般に使われる意味合いを説明します。
そもそもリフォームとは、老朽化した建物をもとの状態に戻す作業のことをいいます。あらゆる建物は経年とともに劣化していくため、新築の状態へと戻すために、リフォームを行うこととなるわけです。
具体的には、壊れている箇所を修復したり、汚れている箇所をきれいにしたり、老朽化している部分を新しくしたりなどの作業が含まれることとなります。たとえば、「壁紙の貼り替え」「外装の補修」「使用できなくなった設備を同等のものに交換」などもリフォームの一環です。
一方でリノベーションとは、修繕によって建物の機能や性能を高め、物件そのものの価値を以前より高めるための工事、つまりグレードアップを目的とする工事を指しています。
リフォームとは異なり、もとの状態に戻すというよりは、従前にはなかった要素を盛り込むという意味合いが強いと考えていいでしょう。新たな機能や価値を付加することで、物件が生まれ変わり、資産価値が上がるケースも少なくありません。
たとえば、「デザイナーズマンションへの変更」「間取りの変更」「外装のバージョンアップ」「新しい設備機器の追加」「元の設備より高い機能・性能のものに交換」などもリノベーションの一環となります。
このように、リフォームとリノベーションでは、その内容が大きく異なります。どちらが優れているということではなく、そもそも目的が異なっていると認識しておけばいいでしょう。いずれにしても、必要に応じて適切にリフォームやリノベーションを実施していくことは、保有している不動産の価値を維持したり、将来にわたって価値を高めたりするのに欠かせません。
次に、少し視点を変えて、修繕の「費用面」について考えてみましょう。
投資物件の室内・建物全体の修繕に関する費用は、支出する金額が大きくなるケースも少なくありません。数十万円から数百万円、大規模な物件では数千万円に及ぶこともあり得ます。高額だからと言って出し惜しみしていると入居率(もしくは空室率)に悪影響を及ぼす可能性がありますので、適切に費用を支出することが大切です。
また、マンション経営で発生した費用は、不動産所得の確定申告において経費計上が可能です。そのため、節税という観点からも、計画的に修繕に関する支出を行っていくと非常に効果的です。ただし、当然のことではありますが、やみくもに支出をしていてはキャッシュフローが悪化してしまいます。
では、不動産投資・マンション経営において、リフォームやリノベーションの実施可否を、どうすれば適切に判断できるでしょうか。一つの判断材料として「性質の違い」をもとに検討する方法があります。そこで知っておきたいキーワードは「修繕費」と「資本的支出」です。
修繕費とは「建物を修復するための支出」です。新築のときには当然に備わっていた基本スペック(設備や性能)をもとに戻したり、機能を維持したりするために、資金を投じるのが修繕費になります。ある意味においては、固定資産の原状回復のために使う費用と考えてもいいでしょう。ちなみに、災害などで損傷した建物の修復も修繕費に該当します。
一方、資本的支出とは「建物の価値を高めるため(グレードアップのため)に行う支出」のことです。故障した箇所や劣化したところをただ修復するだけでなく、それまでになかった要素を加えることで建物の価値を高める、つまり投資的側面のある支出です。ちなみに、リノベーションは建物の価値を高めるための積極的な施策なので、資本的支出に該当するケースが多くなります。
先に述べたように、リフォームとリノベーションとでは、同じ修繕でも考え方が大きく異なります。そのため、費用を経費計上するときにも分けて考える必要があります。もちろん確定申告においてはさまざまなルールがありますが、基本的な考え方としては、リフォームの費用は「修繕費」、リノベーションの費用は「資本的支出」として捉えるのがわかりやすいでしょう。
修繕費と資本的支出とを分けて考えることによって、支出した金額がどのような効果を生むのかをイメージしやすくなります。修復が必要な箇所を単にリフォームして修繕費が発生するのか、先行投資としてリノベーションを行い資本的支出が発生するのか、似たような支出でも目的や効果が異なることがわかります。
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実務においては、修繕費と資本的支出は明確に分けられます。修繕費はその年に全額経費として計上できる一方、資本的支出は減価償却費として計上されるためです。節税という観点から考えると、これらの違いはかなり大きいといえるでしょう。では、それぞれをどのようにして見極めればいいのでしょうか。ポイントは次の通りです。
1つ目は「支出した金額で判断する」という方法です。たとえば、行った工事がリノベーションに該当すると思われるものであったとしても、20万円未満であれば、修繕費とみなして計上することができます。ただ、合計金額が20万円未満であることが条件となるため、分割払いで対応している場合には注意しましょう。
「修繕する期間で判断する」という方法もあります。修理や改良などの工事がおおむね3年以内を周期として定期的に行われているのであれば、修繕費として判断していいでしょう。この場合、自分で行ったかどうかを証明できれば問題ありません。あらかじめ、修繕に関連する請求書や見積書を保存し、その内容を記録しておきましょう。
費用が20万円以上、かつ工事の周期が3年を超える支出で、価値を高めることが明らかなものは資本的支出とすべきでしょう。しかし、もとに戻すだけなのか、価値を高めるものなのかが曖昧で、修繕費なのか資本的支出なのかがどうしても区分できない場合は「60万円未満または取得価額の10%以下」という指標を活用しましょう。その基準に該当する場合は修繕費として計上することができます。
ちなみに取得価額については、固定資産の前期末時点の取得価額(取得時の取得価額に前期末までの資本的支出の金額を合計したもの)となるので注意しておきましょう。
上記の基準で区分できないものは「支出金額の30%」「取得価額の10%」のいずれか少ない額を修繕費としたうえで、残りの資本的支出として計上することができます。ただし、この基準を使用する場合には、“継続的な適用”が条件となります。そのため、次回以降の修繕にも影響があるということを覚えておいてください。
その他、「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」(2019年度末まで延長)として、「青色申告の場合は1個につき30万円未満のもの(総額300万円まで)」については、全額をその年の必要経費に参入することができます。
過去のケースでは、「修繕費に該当するのか」「減価償却費に該当するのか」によって、裁判の判決が出されています。代表的なものをチェックしておきましょう。
外壁の補修工事に関する費用について、1989年10月6日に出された裁決です。結論としては「修繕費」に該当するとされました。裁決の要旨の引用は以下の通りです。
「資本的支出と修繕費の区分は、支出金額の多寡によるのではなく、その実質によって判定するものと解されるところ、本件建物の外壁等の補修工事のうち、外壁等への樹脂の注入工事等は建物全体にされたものではなく、また、塗装工事等は建物の通常の維持又は管理に必要な修繕そのものか、その範ちゅうに属するものであるから、これらに要した費用は修繕費とするのが相当である。また、外壁天井防水美装工事は、補修工事に伴う補修面の美装工事であって、塗装材として特別に上質な材料を用いたものではないことが認められるから、これに要した費用も修繕費とするのが相当である。」
引用元:「修繕費」国税不服審判所
システムキッチンおよびユニットバスの取り替えにかかる費用について、2014年4月21日に出された裁決です。結論としては「資本的支出」に該当するとされました。裁決の要旨の引用は以下の通りです。
「本事例は、新たなシステムキッチン及びユニットバスの取替えに要した費用が、賃貸用マンションの通常の維持管理のための費用、すなわち修繕費であるとは認められず、新たにシステムキッチン及びユニットバスを設置し、台所及び浴室を新設したことによって、当該マンションの価値を高め、又はその耐久性を増すことになると認められることから、その全額が資本的支出に該当するとしたものである。」
引用元:「修繕費」国税不服審判所
これらの事例以外には、建物の現状を回復または維持するための工事として行う屋上防水工事については「修繕費」に該当するとされたものもあります。また、蛍光灯をLEDランプに取り替える工事をした場合、部品の性能が向上しても建物附属設備の価値が向上したとはいえないと判断され、「修繕費」が相当とされた例もあるのです。
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修繕費と資本的支出については、経費という観点からまとめておきましょう。ポイントは次の通りです。
基本的に、修繕費は全額がその年の経費に計上できるため、支出すればするほど支出した年における節税効果が高くなります(所得額が赤字になる場合を除く)。ただし、高額な修繕費の支出をすると、一時的にキャッシュフローが悪化することにもなるため、必要な支出は行うべきですが、節税目的で支出しすぎるのは避けるべきでしょう。適切な範囲内において、適切なタイミングで支出していくことが得策といえそうです。
一方、資本的支出については、いったん資産として計上し、減価償却費として数年にわたり経費計上します。そのため、耐用年数に応じた計上をしなければなりません。支出した年における節税効果は限定されていると考えた方がいいでしょう。
このように、修繕費と資本的支出とでは、経費としての取り扱いが異なります。最終的に経費として計上できる金額に変わりはありませんが、キャッシュフローへの影響や短期的な節税効果が異なるため、それぞれの違いを理解したうえで支出するようにしてください。支出する金額が大きくなる場合は、特に注意が必要となります。
ちなみに、節税に関する情報などでは、減価償却費よりも全額その年の経費として計上できる方が「節税効果が高い」と表現されている場合がありますが、それは正確ではありません。
なぜなら、所得税においては「累進課税」が採用されており、個人の場合は計上する年の所得額(給与所得含む)によって節税効果が変わるからです。減価償却費で計上していても、支出した年の所得が少なく翌年以降の所得が多い場合などでは、その年の経費として計上するよりトータルの節税効果が高くなる可能性があります。
また、必要な修繕が重なるなどしてその年における支出合計が多く、その年の経費で計上しても節税効果が見込めない場合に減価償却費で計上することができれば、翌年以降に節税効果を発揮する可能性も考えられます。
結局のところ、節税効果は状況によって変化してしまいます。そのため、どんなに綿密に節税を計画しても、期待したほどの効果が得られないという可能性があるのです。節税効果を知っておくことも大切ですが、節税にばかりとらわれすぎないように注意しましょう。
リフォームとリノベーションの違いをふまえたうえで、不動産投資における修繕費と資本的支出の違いについて紹介してきました。それぞれの違いについて理解が深まったでしょうか?特に節税という観点からは、これからの違いをきちんと理解したうえで対応することが欠かせません。それが結果的に、不動産投資の成功確率を高めてくれます。
ただし、節税効果を重視しすぎるのは禁物です。節税効果という視点からしか物事を考えられなくなると、“必要な修繕”や“将来につながる資本的支出”という観点が抜け落ちてしまいます。そうではなく、あくまでも入居者への価値提供や資産価値の保存という視点を加えて、総合的な判断をすることが望ましいでしょう。それでこそ、不動産投資家がもつべき正しい経営姿勢ではないでしょうか。
「どのようなタイミングでリフォーム・リノベーションを実施するのか」「どのくらいの金額を支出するのが相当なのか」について判断することも不動産投資家の仕事です。その物件が担うべき役割に加えて「どのような価値を提供しているのか」も含めて検討することによって、幅広い視点からリフォーム・リノベーションについて考えていきましょう。
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