バブル崩壊後の1990年代後半から、様々な金融制度の改革が行われ、2000年代に入ると「貯蓄から投資へ」という言葉が使われ始めました。2015年ごろからは、より身近なテーマとして捉えてもらうことを狙いに、金融庁が「貯蓄から資産形成へ」という言葉を使うようになりました。その後も投資・資産運用の裾野を広げる目的で証券税制の優遇などを行い、資産形成のための環境作りを国を挙げて行ってきました。
しかし、実際にこの約20年の間で「貯蓄から投資へ」「貯蓄から資産形成へ」は進んだのでしょうか。今回は日米欧の家計の金融資産構成の割合や推移などを比較しながらお伝えしていきましょう。
(本記事は2019/05/22配信のものを2020/12/19に更新しております)
以下は、1999年12月末時点の日本の家計の金融資産構成です。
金融資産の半分以上を現金・預金が占めています。一方で株式・投資信託・債券を合わせてもわずか15.7%と金融商品の占める割合が少ないことがわかります。
この前年の1998年には金融制度改革、いわゆる「金融ビッグバン」の一環として、銀行で個人向けの外貨預金の取り扱いや投資信託の販売が始まりました。インターネット証券会社の新規参入が認められたのもこの年で、個人の投資環境が大きく変わった節目の年と言えるでしょう。
その後2003年の税制改正で、いわゆる「証券優遇税制」が施行されます。それまで20%だった上場株式などの譲渡益・配当に対する税率を10%とし、その後2013年まで延長されました。(2020年12月現在における税率は復興特別所得税を含む20.315%です。)
また、源泉分離課税を廃止し申告分離課税に一本化し、さらに特定口座制度を導入することで確定申告の手間を軽減し、手続きの簡素化を図りました。
2014年からは少額投資非課税制度「NISA」が導入され、年間100万円の非課税投資枠が設定され、株式・投資信託などの配当・譲渡益が非課税になりました。さらに2016年にはNISAの非課税投資枠が年間120万円に引き上げられ、未成年者を対象とした少額投資非課税制度「ジュニアNISA」も導入されました。2018年には「つみたてNISA」が新たに加わり、従来のNISAとの選択ができるようになりました。
ちなみに2020年12月現在において、NISA制度の改正法案が2020年3月に参院可決されており、現行制度は2023年までとなり、新制度は2021年3月末に公布され2024年から始まります。大きな変更点としては、NISA制度をより中長期かつ安定的な資産形成へと振り向けるために、非課税枠を現行の買付対象制限のない年間120万円から、買付対象制限ある年間102万円とつみたてNISAと同じ年間20万円といった2階建て方式に変更しています。
※参照「令和2年度税制改正について」
このように、この約20年間で様々な税制の優遇や新たな制度の導入が行われ、個人の投資環境が整備されました。ではその間、家計の資産に占める金融商品の割合はどのように変化したのでしょうか。2020年3月末時点の、日本の家計の金融資産構成は以下の通りです。
1999年12月末時点の資産構成と、それほど大きく変わっていないことがわかります。依然として現金・預金が資産の半分以上を占め、金融商品の占める割合は少ないままです。「貯蓄から投資へ」「貯蓄から資産形成へ」はあまり進んでいないということになります。
では、資産構成を欧米と比較するとどのような違いがあるでしょうか。同じく2020年3月末時点の、アメリカとユーロ圏の家計の金融資産構成は以下の通りです。
年金・保険の割合は大きく変わりませんが、現金・預金、債券・投信・株式の割合に違いがあります。アメリカは現金の保有が少なく株式などの金融商品の保有が多いです。ユーロ圏は日本とアメリカの中間といったところでしょうか。いずれにしても、日本は欧米と比較しても現金・預金の保有割合が多いことがわかります。
※参照「資金循環の日米欧比較」2020年8月21日 日本銀行調査統計局より
現金・預金は、日常生活において欠かせないものです。ただし今後、インフレ・増税などによって物価が上がっていった場合、現金・預金の額面は変わらなくても、実質価値は相対的に下がってしまいます。
必要最低限の現金は手元に置いておく必要がありますが、今後の物価上昇に備える「資産防衛」という観点から、少子高齢化による社会保険料の負担増や将来の年金受給額の不透明さを考慮すると、手元の現金の一部を「貯蓄から投資へ」「貯蓄から資産形成へ」回していくことも検討すべきでしょう。
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