見落としがちな「相続税の納付」から逆算した、相続対策とマンション投資の注意点

(写真=JPC-PROD/Shutterstock.com)
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相続税は、ある程度まとまった財産を保有している方にとって、また財産を受け継ぐ可能性がある方にとって悩ましい問題です。相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える相続財産を保有している方が亡くなった場合には、財産を受け継ぐ方に対して相続税がかかる可能性があります。できるだけ納める相続税を少なくしたいと考えるのは当然で、特に2015年の税制改正以降、相続税の課税対象者が急激に増加したことを受け、相続税対策を検討する方が増えています。

この記事を読んでいる方は、相続税対策と聞くと「相続税を少なくすること」を思い浮かべるかもしれません。ですが相続税を少なくすることばかりに気をとられ、相続税評価額の圧縮ばかりを意識しすぎると、思わぬ落とし穴にはまる可能性があります。なぜなら、どんなに相続税評価額を圧縮しても、相続財産の規模によっては相続税を納付する義務が生じるからです。

相続税を納めようにも、相続した財産のほとんどが不動産で預貯金が少なかったり、納税するための現金をあらかじめ用意していなかったりすれば、相続税の納付をスムーズに行うことはできません。数百万円、数千万円規模の納税となればなおさら、納税期日までに納税するのが難しくなってしまう可能性もあります。

実際に、相続税の納付について準備ができていなかったために、せっかく相続した財産を減らしてしまったり、自らの生活に大きな影響が出てしまったりするケースが後を絶ちません。そのような事態にならないよう、あらかじめ「相続税の納付」について知ったうえで相続対策を進めることが大切です。

見落としがちな「相続税の納付」

相続税対策を考えるときに、まずは納める金額を少なくすることを考える方が多いでしょう。たとえば、区分マンション投資であれば相続税評価額の圧縮効果が高い(現金の約3分の1)ことに加え、相続時に分配しやすい、維持管理しやすいといったメリットがあります。さらに「都心の区分ワンルームマンション投資」に焦点を当ててみると、賃貸需要が将来にわたり見込めるため安定した家賃収入を得やすい、流動性が高いため相続人は保有も売却も選択しやすいといったメリットがあります。

【参考記事】
相続対策には都心の区分ワンルームマンション投資が優れている3つの理由

ただし、区分マンション投資で相続税評価額を圧縮しても、相続財産をすべて合計して算出した「課税価格」が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合には、相続税の納付義務が発生します。そのため、相続税対策では区分マンションに投資するだけでなく、相続税の納付についても準備しておく必要があるのです。

相続税は誰がどのくらい納付する?

そもそも、相続税は誰に納付義務が生じるのでしょうか。相続税は、相続財産を受け取った人(相続人)が、受け取った割合に応じて納付することになります。つまり、相続税評価額の高い相続財産を受け取った場合には、その分相続税を多く納付する義務が生じます。そのことを認識したうえで、相続税を少なくすることにとどまらず、相続税をどうやって納付するかについても考えておくことが大切です。

相続財産を受け取る可能性があるならば、受け取った分だけ相続税の納付義務が発生する点を認識しておきましょう。なお、納付手続きは相続人それぞれで行う必要があり、誰かがまとめて納付するわけではない点にも注意が必要です。

相続税における納付手続きのパターン

ここで、相続税における納付手続きのパターンについて見ていきます。相続税の納付方法には、現金で一括納付、延納、物納、クレジットカード納付があります。

・現金で一括納付が原則

相続税の納付期限は、相続税の申告期限と同様、被相続人が亡くなってから10か月後までと定められています。特に注意したいのは、相続税の納付方法は現金での一括納付が原則となっていることです。例えば、相続財産に預貯金が含まれていないのにもかかわらず相続した不動産の相続税評価額が高い場合に、高額な相続税を現金で一括納付しなければならないのに手元に現金がないという事態が起こり得ます。

あるいは、相続財産に関係のない自分の預貯金を、相続税の納付に充てなければならないという事態も考えられます。相続税の納付においては、相続した財産かどうかにかかわらず相続人が現金を保有している場合、国税庁から現金での一括納付を求められます。そのため、ライフプランのさまざまな局面に備えてコツコツ計画的に進めてきた貯蓄であっても、相続税の納付に充てなければならない可能性があることに注意が必要です。

・延納と物納

現金一括納付が困難な場合には、「延納」や「物納」が認められる場合があります。延納とは、納付が困難な金額を限度として、担保を提供することにより年賦で納付する制度です。また、物納とは、納付を困難とする金額を限度として一定の相続財産(不動産や株式、債券など)で納付する制度です。

ただし、延納や物納を申請して延納や物納が認められるケースは限定されています。国税庁のホームページによると、延納では「相続税額が10万円を超え、金銭で納付することを困難とする事由がある場合」、物納では「延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合」に限られます。このことから、相続税の納付方法の優先順位は、現金一括納付、延納、物納の順とされていて、国税庁が金銭での納付を重視していることがわかります。

「相続税の延納」国税庁ホームページ
「相続税の物納」国税庁ホームページ

特に注意したいのは、延納の場合に「延納利子税」がかかる点です。延納では相続財産に「不動産等」が含まれる割合に応じて、延納期間と延納利子税割合が決められています。相続財産の形態に応じて、延納可能な期間は5年~20年、延納利子税割合は1.2%~6.0%となっています。

なお、延納する期間と毎年納める金額は、個々人の金銭状況に応じて設定されます。収入のある方でも最低限の生活に必要な分を残して延納に充てられることとなり、延納を選択した場合には生活費を切り詰める必要も出てきます。そのような状況を避けるため、延納を選択せず、民間の金融機関で相続した不動産を担保にしてローンを受け、相続税の現金一括納付に充てるケースもあるようです。

・相続税のクレジットカード納付

近年ではさまざまな税金がクレジットカードで納付できるようになっています。相続税もクレジットカード納付が可能となっていて、国税のクレジットカード納付専用窓口である「国税クレジットカードお支払サイト」から夜間休日を問わず、24時間いつでも納付できます。相続税が少額の場合には利用してみるのも良いでしょう。

ただし、クレジットカード納付を行う場合には、決済手数料がかかりますので注意しましょう。納付税額に応じて、最初の1万円までは76円(消費税別)、以後1万円を超えるごとに76円(消費税別)が決済手数料として加算されます。また、領収証書が発行されないこと、クレジットカードで納付した分の納税証明書が発行可能となるまで3週間程度かかる点にも注意が必要です。

相続が発生してから現金化では遅い!納税原資を確保する方法

高額な相続税を現金で一括納付する義務が生じた場合、手元に現金がなくても相続した不動産を売却すれば相続税を納付できるのでは、と考える方もいるでしょう。しかし、一棟の投資物件、利用用途が限られる地方の不動産など、不動産のなかには流動性が低いものもあります。ひどい場合には、収益を生まないどころか維持管理の費用ばかり発生する"負"動産を相続してしまうケースもあります。

そのような不動産を相続した場合、相続税を納付するまでの限られた期間で売却活動を行っても、相場より著しく低い金額でしか売却できない、あるいは売却がまとまらず現金化できない可能性が高いでしょう。

このように考えると、相続が発生してから現金化して相続税を納付するのではなく、あらかじめ相続税の納付に備えて納税原資を確保することが大切になってきます。納税原資を確保するときのポイントは、被相続人となる方が相続税評価額の高い現金を保有せずに、相続人となる方が相続時に現金を保有できるよう準備することです。

例えば、被相続人となる方が生命保険に加入し、保険金の受取人を相続人となる方にしておく方法があります。死亡保険金の受取人が相続人(相続を放棄した人や相続権を失った人は除く)である場合には、死亡保険金は相続税の課税対象となりますが、「500万円×法定相続人の数」までが非課税限度額として認められます。この非課税分をうまく活用すれば、一定の納税原資を確保することが可能です。

また、被相続人となる方が保有している現金を投資用マンションに換え、相続人となる方に生前贈与する方法もあります。現金を投資用マンションに換えれば、相続税評価額が大幅に圧縮されるため、贈与税の負担をほとんど生じさせずに生前贈与が可能となります。贈与された投資用マンションから得られる家賃収入を蓄積しておけば、いざというときに相続税の納付に充てることが可能です。

相続対策や納税準備はできることならすぐにでも

相続が発生すると、被相続人(亡くなった方)の家族や近しい間柄の親族は、親戚をはじめ被相続人の生前に親交の深かった友人・知人、仕事上の関係者などへの連絡、葬儀の準備、役所への届出など、行うべき事柄がいくつも発生します。そのような対応に追われることを想像すると、被相続人が亡くなってから1~2ヶ月は、どのくらい相続財産を受け取れるのか、どのくらい相続税を納付しなければならないのかなど考える余地もないでしょう。

相続事案が発生してからできる相続対策は限られています。また、相続対策は一朝一夕に実施できるものではありません。そして何よりも、相続はいつ発生してもおかしくありません。極端に言えば、今日明日にも発生するかもしれないのです。相続が発生することは決して喜ばしいことではありませんが、できることならすぐにでも、相続発生時を想定して相続対策や納税準備を進めておくことが大切です。

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