進む東京都心の再開発(18)
東京都世田谷区の北東部に位置する下北沢エリアは、ライブハウスや劇場など、サブカルチャーの発信地として広く知られています。渋谷や原宿などと並んで、“若者の街”“ファッションの街”というイメージが強いことが、下北沢エリアの特徴と言えるでしょう。下北沢駅から代々木上原駅まで直線距離で約1.4km、三軒茶屋駅まで直線距離で約2kmと、人気エリアに距離が近いことも、感度の高い若者が多く集まる理由の一つです。
中心となっている下北沢駅の周辺には、「下北沢一番街」「しもきた商店街」「下北沢東会」「下北沢南口商店街」「下北沢南口ピュアロード新栄商店会」「代沢通り共栄会」という6つの商店街があります。古着屋、雑貨屋、美容室、おしゃれなカフェ、隠れ家的なバー、個人経営の飲食店など、個性的な店が多く、独特の魅力がある街並みを形成しています。
下北沢駅には小田急線と京王井の頭線の2路線が通っており、都心へのアクセスに優れています。下北沢駅から京王井の頭線の急行で渋谷まで1駅、小田急線の急行などで新宿まで2駅、54万平米の面積を誇る都立代々木公園も身近です。
さらには小田急線と千代田線との相互直通運転により、赤坂、日比谷、大手町といったビジネスエリア、ファッションやグルメで話題性のある商業施設が豊富な原宿・表参道エリアへも乗り換えなしで往来できます。
そんな下北沢エリアは、今後どのように発展していくのでしょうか。沿線や周辺地域の再開発状況を中心に見ていきましょう。
(本記事は2019/03/06配信のものを2020/05/13に更新しております)
これまで小田急線では、快適な輸送サービスを実現するための抜本的な輸送改善策として、東北沢―和泉多摩川間において「複々線化事業」が進められてきました。1964年の都市計画決定から約50年、着工から約30年が経過した2018年3月、同区間での複々線化が完成しています。
より詳細には、喜多見駅―和泉多摩川駅の区間は1997年に複々線が完成しており、世田谷代田駅―喜多見駅の区間は2004年に複々線が完成しました。世田谷代田駅―和泉多摩川駅の区間は高架化され、踏切の廃止により周辺道路の渋滞が緩和。同区間内の駅や高架下が整備されるなど、沿線の利便性が大きく向上しました。
また、東北沢駅―世田谷代田駅の区間に関しては、地下式による複々線化計画が進められてきました。2013年に在来線が地下化され、2018年3月に複々線が完成。あわせて、小田急線のダイヤを大幅に改正し、ラッシュ時の混雑率や遅延の改善を進めています。
実際に、国土交通省「東京圏における主要区間の混雑率」によると、世田谷代田駅→下北沢駅における混雑率は、2016年度調査では192%であったのが、2019年度には158%と、いわゆる「スマホを楽に見たり、新聞・雑誌を楽に読んだりできるレベル」まで大きく改善。乗客の快適性が高まっています。
とくに下北沢駅は、新宿寄りの改札口を開放的な空間にしている他、北側の壁面を透過性のある素材にするなど開放感のあるデザインを採用。その結果、利便性だけでなく街の回遊性が向上し、さらなる発展に貢献しています。
具体的な変更点としては、小田急線下北沢駅ホームが地下1階(千代田線直通列車、各駅停車)と地下2階(快速急行、急行など)に分かれ、改札口は1階に設けられています。京王井の頭線と小田急線の改札が別々になったのも大きな変化でしょう。
工事の進行経緯としては、2017年10月に南西口が使用開始となり、2018年12月に東口が使用開始となりました。さらに2019年3月16日に「小田急中央口」「京王中央口」が使用開始されています。
2019年3月の事業完了後は、小田急線の「南西口」「東口」「小田急中央口」、京王井の頭線の「西口」「京王中央口」と5つの改札口が利用されています。各所にエレベーター、スロープ、南北通路が整備され、バリアフリーに対応した駅となっています。
<2020年5月16日追記ここから>
また、小田急線下北沢駅に関しては、子供専用トイレが設置された点、ベビーカーでも移動しやすくホームドアが設置されている点など、小さなお子様連れでも安心して利用できる駅に生まれ変わったと言えます。
子育て世代へ向けた情報発信を行うWebメディア「日経DUAL」の独自調査「100点満点で評価!子連れで利用しやすい駅」(小田急線下北沢駅は2019年6月に実施)では、東京都内の駅で最高クラスの「100点満点中97点」という評価を受けています。
※「小田急線下北沢駅 子連れに優しい駅にリニューアル」日経DUAL
<2020年5月16日追記ここまで>
小田急線の地下化で駅がリニューアルされた結果、活用可能な土地が生まれ、地上部も活性化しています。たとえば世田谷区では、「北沢デザイン会議」を2014年8月から、「北沢PR戦略会議」を2016年10月から開催するなど、住民参加型のまちづくりを進めています。
下北沢駅周辺の小田急線地上部においては、世田谷区や小田急電鉄が中心となり、2018年3月までに通路、広場、緑地、駐輪場などの整備が行われてきました。また、小田急線地上部に点在する空き地には、商業施設、保育園、駐車場、賃貸住宅などの建設が進められています。
※「つなぐデザイン つながるまちづくり」世田谷区 第6回北沢デザイン会議
<2020年5月16日追記ここから/2021年2月8日更新>
小田急電鉄は2019年9月24日、小田急線地上部の1.7km、敷地面積約27,500平米にわたる鉄道線路跡地の開発計画「下北沢地区上部利用計画」を「下北線路街」として、2020年度までに整備する(一部を除く)ことを発表しました。「BE YOU.シモキタらしく。ジブンらしく。」を開発コンセプトに、下北沢という特徴ある街や地域の人々に対する「支援型開発(サーバント・デベロップメント)」として、地域の魅力を引き出す取り組みを行っています。
下北線路街に2020年4月オープンして注目を集めている複合施設が「BONUS TRACK(ボーナストラック)」です。飲食店や物販店、住居併設の店舗を中心にコワーキングスペースやシェアキッチン、イベントを開くための広場やギャラリーなど、新たなカルチャーを創造できるような「参加型の空間」をコンセプトとしています。「店主の顔が見える」商店街のスタイルを大切にしながら、若者の新たなチャレンジの拠点として運営されています。
2020年9月28日に晴れてオープンとなった注目の施設が、世田谷代田駅に隣接する敷地に建設中の「温泉旅館 由縁別邸 代田」です。
約19平米から32平米までの7タイプ・全35室の客室が設けられ、露天風呂付の客室もあります。大浴場には箱根・芦ノ湖温泉から湯が運ばれる露天風呂を設置、サウナ、ボディトリートメント、日本料理店、茶寮など温泉以外の施設も充実しており、温泉大浴場を含む一部施設・サービスは宿泊客以外の日帰り利用も可能となっています。
さらに2021年春には、別棟「離れ」が開業予定。現在客室でのみ利用可能なスパトリートメントを、宿泊客以外も利用可能となる予定です。
<2020年5月16日追記ここまで/2021年2月8日更新>
さらに、下北沢駅の北側では、下北沢駅前広場を含む「世田谷区画街路第10号線」や、茶沢通りから西側の「都市計画道路補助第54号線(下北沢1期)」などの整備計画があります。2021年度中の完成を目指して再開発事業が進められている状況です。
今後も下北沢エリアでは、駅周辺を中心に、さらなる発展が期待できそうです。
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